世界遺産巡礼の道をゆく ― 熊野古道 ―

 
 フランスからスペインへと続く「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」に次いで、巡礼路としては2ヶ所目に世界遺産に指定された「熊野古道」の写真集である。類書は多く、今更と思われる方も少なくないだろうが、郷秋<Gauche>にとっては始めての「熊野古道」である。類書をまったく見ていないという勉強不足故に、見当違いを書くやも知れぬがお許しいただきたい。

 著者、南川三治郎氏は、本著のために世界にたった3台しか存在しないという「ディアドルフ8×20インチ」を撮影機材として選んでいる。現在、最も大きなサイズのフィルムを使うカメラとして、8×10(「エイト・バイ・テン」と読む。8×10インチのシートフィルムを使う)は知っていたが、「8×20」などというカメラがあるとはまったく知らなかった。

 四半世紀もの間、倉庫で眠っていたという機材を整備し、同時に8×10と4×5(「しのご」と読む。4×5インチのシートフィルムを使う)用のアダプターも新たに製作したという。フィルムは富士フィルムが用意したらしいことが窺われるが、果たしてどのようなレンズを使用したのかについては、残念ながらまったく触れられていない。

 霊験なまでに美しい道だけを描いた著書ではない。点在する寺の本尊も写し取り、修験道者の姿も、古道の中で今を生きる農家の人々、子どもたちの姿をも取材しているがために、百数十点の写真を縦覧すると、読者の中には、あるいは散漫な印象を持たれる方もおられるかも知れない。しかし、郷秋<Gauche>はそれを、是としたい。なぜならば、古道はかつて生きていた道であるだけではなく、今もなお、その地で暮らす人々にとってはなくてはならない道であるのだから。

世界遺産巡礼の道をゆく ― 熊野古道 ―
南川三治郎著
玉川大学出版部 (ISBN:978-4-472-12003-9)
発行年月 2007年12月
A4版 126頁
3,045円(税込)
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